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◆Mottisfont Abbey Garden in 2016(5)

2016年6月のイギリス旅行記より。

終わりが見えないナショナルトラストの[Mottisfont Abbey Garden]の続き。

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さて、邸内へ入りますよ~。
入口は二階のバルコニーから。
本来の入り口ではないところから入ります。(なぜかは後述します)

さて、紆余曲折あって、MottisfontはHenry8世からSandys男爵
譲られました。
Sandys男爵家はテューダー朝の貴族として、もう一つの屋敷[The Vyne]と
こことを行き来して暮らしました。
1569年と1574年にはElizabeth1世を歓待もしています。

こんな男爵一族の王家への忠誠が、続く1640年代の内乱[The Civil War]の
時代に問題を引き起こします。
当時、王国内のすべての貴族・有力者は、「国王派」か「議会派」か
旗色をあらわにしなければならなかったからです。

Sandys男爵家は国王のサポーターとして、国王軍と共に戦い、第5代男爵は
1644年に[Battle of Cheriton]で戦死。
この戦いで勝利を収めたのは[議会派]であり、これによりクロムウェルの
共和政が始まるわけです。

敗者側の[王党派]として戦った男爵一族は高い代償を支払わねばならず、
20年後には[The Vyne]を売る羽目に陥ります。

その後、王政復古があった後、第8代にして最後の男爵Edwinが1684年に
後継者なしで亡くなりました。
爵位は潰えましたが、Mottisfontは女系の甥であるSir John Millに譲られ
ました。
Mill家はその後、200年近くこの地所を所有します。
Sir Johnの息子Richardが屋敷を現在の形にリフォームしたのは1742年です。

1934年、Peter Barker-Mill が屋敷と地所を売りに出すと、それを買ったのは
第6代Bedford公爵のひ孫である、Gilbert Russell (1875–1942)とその妻、
Maud(1891–1982)夫妻でした。

職業軍人であったRussell氏はエジプト、スーダン、南アフリカなどで戦い、
二人は1917年、第一次世界大戦中に結婚しました。
時に新郎42歳、新婦26歳。

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Gilbert Russell氏と妻Maudの結婚式(1917)の写真です。
昭和天皇の結婚式(1924)の写真の時代と雰囲気的に似てますね。
ストンとしたハイ・ウェストのドレス。
Maudが一段下の階段に立っているのか、旦那さまがおチビなのか。
なんとなく、プロポーションがおかしい気がする。。。

Maudはドイツ系ユダヤ人銀行家の娘。
当時の社交界では、なんだかんだで一段劣るとされた社会階層です。
(『ダウントン・アビー』でも預かっていた令嬢がユダヤ人と結婚する話がありましたね)

Russell氏は彼女を愛し、アートに対する彼女の情熱も支えました。
彼女はモダンアートのコレクターであり、彼らのパトロネスとなります。

家族や親しい友人たちはRussell氏を、「穏やかで優しい男」と評しました。

たくさんの芸術家が彼ら一家の肖像画を描きました。
中でも有名なのがHenri Matisseで、彼は何枚かMaud夫人の絵を描きます。
彼女は気に入らなかったようですが・・・(^^;

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この水彩画は20世紀イギリス肖像画界を代表するSir William Olpen作の
Russell氏です。

息子が語った両親の思い出によると、

  「父はいつも優しくて、人の失敗に寛容でした。
   Mottisfontでは彼はほとんど何もしませんでした。
   たくさんの使用人や猟場管理人などが家政を取り仕切っていて
   父は彼らを完全に信用していました。
   彼らが不正直であったり、不正を働いたりするまでは決して彼らを
   クビにしませんでした。」

  「これが、Mottisfontの莫大な浪費の実態です。
   母が所有する厨房や庭や屋敷にはたくさんの人手が必要で、
   Mottisfontでの我々の生活を特徴付けるものは『浪費と無駄』でした。

   『切り詰める』なんて聞いたこともありませんでした。
   私の父は『切り詰める』ことが大嫌いであり、私の母は『切り詰める』
   ということを理解すらできませんでした。」

とのこと。
なるほどねー。
お金に糸目をつけない人たちだったのですね。(^^;

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Russell氏の書斎のスクエアピアノ。
ペダルが4つもある。

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彼らが1930年代にBarker-Mill家からこの家を購入した際には、
あちこちに修繕が必要なほどボロ屋敷だったそうです。

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結婚によって、軍人から銀行家に転身したRussell氏(義理の親である、
ドイツ系ユダヤ人銀行家のNelke氏はかなり彼を援助した模様)。
稼いだお金は奥様が湯水のように蕩尽。
・・・お似合い(?)のカップルであります。

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Russell Boys。
MartinとRaymond兄弟。

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これは恐らく、ナニー(乳母)かガヴァネス(家庭教師)のEllenさんが
書いた手紙の複製。

  「親愛なるメアリー
   Russell家の坊やたちは(全寮制の)イートン校へ行ってしまいました。
   私は小さいお子さんのいる新しいお宅を探しています。
   お近くでご存知のご家庭がありましたらお知らせください。
   お元気で。
   エレンより」

いつの時代も就職って大変ですよね。。。
特にこの時代は!
(息子たちがイートンに行くのが13歳として、生まれが1920年くらいだから
ちょうどMottisfontに来た直後ですね)


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こちら、隠し扉になってます。

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これは屋敷内の人件費一覧、かな。。。

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廊下です。

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廊下の壁は大理石を手でハンドペイントしています。
イタリア製の大理石を使えばいいじゃないの、と思いますが、
この手書き「なんちゃって・大理石」は昔、一大ブームだったのです。
お金持ちって・・・。

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(おそらく)客用寝室。

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左上あたりに、この屋敷が修道院だったころの遺構が見えます。

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そっくり姉妹。
手にはお父様のメダイユ。

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こちらはRex Whistlerが1938年から一年間滞在し、大広間の装飾を
していた時のアトリエ。

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左に大きな大きな肖像画があります。

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かわいいお嬢様たちとワンコ。

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お嬢様の格好から、1830~40年代くらいかと。
見せパンツならぬ、見せdrawers(パンツ)がかわいい。
そして、この紐シューズ!!
これ、似たようなのが去年流行していましたよ。東京でも・・・。

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長女・次女・三女・・・という感じです。
三女が男の子か女の子か見分けるポイントは、首の珊瑚のネックレス
この時代、上流階級では男の子も5歳くらいまで女装が普通でした。
髪も伸ばしてカールとか。見かけだけでは男女はわかりません。
そこをはっきりさせるために、女の子の場合はネックレスを加えることが
多いようです。男の子にネックレスは絶対に付けません。
というわけで、この子は女の子ということになります。

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額縁には天使。

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盾も。
しかし、この絵画は後からナショナルトラストがインストールしたものなので、
詳細不明とのこと。
(Maudは1957年に屋敷と2,000エーカーにも及ぶ土地をナショナルトラストに
寄贈しますが、収集した絵画や家具などは寄贈しませんでした)

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この部屋にも修道院の名残が。そしてその横には奥様の愛人の一人、
Boris Anrepのモザイク作品も。

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さて、ここからは使用人オンリーですよっ!!

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昔のイギリスは厳密に階級差別がありました。
従って、表の美しい階段(↓)は主人夫妻や子供たち、お客様しか使えません。

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使用人には狭くて薄暗い、飾り気のない階段が別に用意されています。

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この辺りは以前にはなかった展示です。
使用人の世界を再現していて、ここは1930年代のメイドの部屋という設定です。

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個室だし、窓もあるし。
それ以前のメイド部屋(狭い上に私物はトランク1個しか置けない+共同部屋)
と比べると、格段に扱いはいい方でしょう。
壁紙もきちんと貼ってあるしね。
その昔の使用人部屋は壁はも床木もむき出しのままという寒々しいものでした。

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足元には湯たんぽ。

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窓辺には少女小説。(ちょっとこれはやりすぎかもしれない・・・)

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アイロン台に裁縫道具入れはもちろん、お菓子の空き缶!!
空き缶に裁縫道具を入れるのは洋の東西を問わない、女性特有の。。。

メイド部屋を出てすぐに共同のバスルームがありますが、ここは
ドアが開かず。覗き穴が開いています。(隠微な・・・)
思わず覗くとそこには!!

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        なんと、ワニ!!

なんで、ワニ・・・?Σ( ̄ロ ̄lll)

NT職員の説明によると、あるゲストがRussell BoysのためにHarrodsの
ペット部門からクロコダイル(生きてるヤツ!)をオーダーして贈ったそうです。
彼はかわいそうに、デパートへ送り返されるまでバスルームに閉じ込め
られたそうな・・・。
(かわいそうなのは使用人かも?その間、浴室が使用不可なんだから)

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使用人階(3階)には下の厨房からエレベーターで食べ物や飲み物が
送られてくるシステムも。これは便利。

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シュガーボウルのドイリーがかわいい。

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エレベーターがある辺りには簡単な洗いものや、洗濯ができる場所も。

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湯たんぽの水を捨てたり、入れたり、石鹸もあるので洗濯も。

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おいおい、左端にあるのはChamber pot(おまる)ではありますまいか・・・。
まさか、ここで洗うのぉ?(--;

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もう一室、展示されていたのはLady's Maid(奥さま付き侍女)の部屋。

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ざっと見ても、さっきのメイドとはランクが違いますね~。
家具も備わってるし、絨毯も敷いてある。

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窓からは、

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庭も見下ろせますし。

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侍女の重要な仕事の一つ、奥様の身支度を整えることのために必要な
ミシンまで。

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傍らにあったこれ、なんだろう?と覗いてみたら・・・糸入れ!!

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携帯用櫛と鏡。
ワンコがかわいい。

さて、この部屋の主は、Adele Lazzariniさんと言います。
Maud Russellの侍女として、1917年以来ずっと彼女に仕えて来ました。
彼女は家政の中心にいつもいました。
第2次世界大戦中、Russell家の友人たちはAdeleのイタリアの家族の
消息を一生懸命探して、可能な限り、便りを渡しました。
Adeleが引退した時には、Russell夫人は近くの村にコテージを用意したので
引き続き、Mottisfontでの暮らしを楽しめました。

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   「奥様は旦那様を棺に納めるところをわたくしに見守って
   ほしいと頼まれました。とてもご自分ではできないとのことで。
   わたくしは喜んで代わりにいたしますとお伝えしました。」

Russell氏が亡くなるのが、1942年。
1917年から仕えた彼女と奥様の間には25年のたしかな絆があったのが
わかります。

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古い時代の洋服は、今の服と違って重そうですね。
いや、実際何もかもが重くて厚かったと思います。
我々21世紀人にはない重みは、こういうところにも反映されていたのかも。

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さて、再び1階に戻ります。
こちらは[Dining room]。

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Adeleの部屋の2階分、真下ですね。

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1930年代にMaudが大改装して、Neo-classical様式になっています。

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ここの隅っこに、面白いものを発見。
子ヤギ皮でできています。何かしら?

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おお~っ!!
なるほど。
これは席次表、なんですね。
執事が使ったのか、Maudが使ったのかは不明ですけど。
これで、当夜のゲストの配置をああでもないこうでもないと考えて
いたのでしょう。
男女、年齢、趣味などのバランス。
時には敵味方や秘密の不倫関係者なども・・・。

は~っ、奥様じゃなくてよかった!笑 めんどくさ・・・。

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再び廊下の反対側へ。

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この辺も、「なんちゃって・大理石」ですね。

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こちらは[Morning room]です。

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暖炉の飾り。なんでしょう?苺かな?

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『The Punch』です。

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これはどなたのお風呂であったろうか・・・。
たぶん、Russell氏のじゃないかな?

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バスタブなどの色合いから、男性用だとわかりますね。

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階段を上ると寝室に出るのでしょう。

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最後にメイン・イベント(?)、[Saloon]へどうぞ!

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ここは元々、古い時代には[Entrance Hall]でした。
それをMaudがSaloonへ変えたのです。
Rex Whistlerに室内装飾を依頼し彼の得意とした、[trompe l’oeil]を
駆使した部屋となっています。
(垂れ下がっているベルベットのカーテンは本物、それ以外は騙し絵)

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彼はここで約1年かけて制作します。
その後、第二次世界大戦でフランスへ出征して亡くなってしまうので、
この壁画装飾は事実上、彼の最後の大作であり最高傑作となりました。

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Maud夫人。
残念ながら(?)、恐らくRex Whistlerは同性愛者だったと思われるので、
奥様の愛人2号ではなかった模様・・・。

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写真に撮ると二次元とはっきりわかりますが、目で見ると三次元と
錯覚します。おや、ボヤだ。

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煙がもくもく。

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サロンなので、ここでカクテルパーティ(1920~30年代に流行したもの)
も行われたのでしょう。

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それまでの上流階級の飲み物はと言えば、ワイン、シェリー、
ブランデーなどで、カクテルなどというものは眉を顰められる
新しい文化なのでした。

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フランス製の金の置時計。

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ガーランドを持つ、丸々した赤子。

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絵の片隅にはWhistlerのサイン。

    「1938年12月19日から1939年10月31日に制作」

とあります。
第二次世界大戦は1939年9月1日の、ドイツ軍のポーランド侵攻に始まる
わけですから、この壁画の終わり頃にはすでに彼は覚悟を決めていた
のかもしれません。
開戦後すぐに、彼は中年(35歳)であったにもかかわらず入隊を決意します。
そして、1944年7月18日に作戦中の移動の事故でノルマンディーで亡くなり
ました。享年、39歳。

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Rex Whistlerの残した生の証を見て、外へ出ます。
ベンチの脚のガーゴイルが間抜けでかわいい・・・。

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は~っ。
見学できる部屋は限られていますが、けっこうおもしろかったです。

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この時点で、早くも夕方。
でもまだ、閉園まで後1時間ちょっとはあります。
もう一回、薔薇園に行かなくちゃ。

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砂利道を元気よくざくざくと。

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右手の変なモダンアート彫刻をチラッと見つつ、先へと進みます。

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薔薇園のキオスクで買った、「薔薇のアイス」。
あれー。
以前はナショナルトラスト印のアイスだったのに・・・。
なんだか、安っぽいメーカー品に変わってしまっています。
薔薇の匂いもあんまり・・・。
これで2.50ポンドは高いわー。(--;

とりあえず、少し休憩しましょう。

2 Comments

Saori  

真木さん、こんにちは~
見どころ満載な施設ですね。
庭もすごいなーと思って見てましたけど、それにもましてお屋敷の方も私好みだなぁ、、、
やっぱりここは一度バラが綺麗な時期にぜひ行って見たいものです。
浪費のお話は私のような一般人には想像するだけですごいなーって感じでしたけど、そうやってお金を湯水のごとく使ってくれたお蔭で、今こうやって私たちが楽しんで見学出来るんですものね。
有難いものです(*'ω'*)

バラのアイス、美味しそう~ロマンチック~って思ったら、イマイチになっちゃってましたか(;´д`)
残念、、、

2017/03/15 (Wed) 18:56 | EDIT | REPLY |   

真木  

ぜいぜい。。。

Saoriさん、

バカみたいに写真がいっぱいあって、全然終わらないMottisfontです!
なんでこんなに撮るんだろう、自分・・・?
しかも、ここは10回以上来ているのに。苦笑

浪費と無駄の規模が半端ないですよね、昔のお金持ちは。
私なんか庶民もいいところなので、大きなお屋敷を訪れると
使用人区画が一番心落ち着く始末です。。。(^^;
ゴージャスな部屋よりキッチンがいい。笑

薔薇のアイス、数年前までは「Mottisfont Rose Ice」ってのが
あったのです。ほんのり薔薇の香りがして。美味しい・・・と
いうわけでもなかったですけど、薔薇園で食べる薔薇アイス!と
テンションが上がったものでした。

2017/03/16 (Thu) 10:34 | EDIT | REPLY |   

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